狭心症とは
この記事を書いた人
榊原記念病院 心臓血管外科 主任部長/帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科 主任教授
下川 智樹
成人の心臓外科として、冠動脈、弁膜症、大血管、先天性、心筋症、不整脈など、あらゆる分野の手術を行っています。得意分野は冠動脈バイパス手術、僧帽弁形成術、自己弁を温存する大動脈弁手術、小さな皮膚切開で行う完全内視鏡心臓手術、大動脈手術です。(心臓手術の無料相談を受け付けています)
このページでは、狭心症の概要や詳しい分類、主な治療方法などについてご紹介します。
狭心症とは?
狭心症とは、何らかの理由で冠動脈のはたらきが悪くなり、心筋への酸素や栄養の供給が不足してしまう病気です。生活習慣病との関わりが深いと考えられており、喫煙習慣やLDLコレステロールの高値、高血圧症などが危険因子といわれています。また、中には川崎病や大動脈弁に生じる心臓弁膜症(大動脈弁膜症)など、何らかの病気が原因で生じる方もいます。
狭心症の分類
狭心症は“虚血性心疾患”と呼ばれる病気の1つです。虚血性心疾患は大きく分けると“安定狭心症”と“急性冠症候群”の2つに分かれます。
以下では、それぞれの特徴をご紹介します。
安定狭心症とは?
安定狭心症とは比較的症状が安定していて、冠動脈が完全に塞がる“心筋梗塞”に発展する可能性が低い狭心症のことをいいます。安定狭心症は、さらに以下のように分類されます。
安定狭心症の種類
- ・労作性狭心症……動脈硬化*によって血管内にプラーク*が生じ、冠動脈内の血液の通り道が狭くなることによって起こる狭心症
- ・
冠攣縮性狭心症 ……冠動脈に一時的なけいれんが生じることによって起こる狭心症
*動脈硬化:血管が固くなり、弾力性を失うこと。
*プラーク:コレステロールなどが固まってできた塊。
急性冠症候群とは?
急性冠症候群とは、安定性狭心症よりも重症で命に関わる可能性の高い状態を指します。“不安定狭心症”と“急性心筋梗塞”に大別され、急性心筋梗塞は命に関わる恐れもあることから速やかな治療が必要です。
また、“不安定狭心症”も血の塊である“血栓”が生じた重症の狭心症のため、心筋梗塞に発展する前に治療することが大切です。
狭心症の症状
狭心症の主な症状は、胸の痛みや圧迫感です。これらの症状が現れている状態を“発作”といいます。発作が現れるタイミングは、狭心症の種類によって以下のように異なります。
安定狭心症の症状
労作性狭心症の場合、体を動かしたときなどに一時的に発作が生じることが一般的です。発作は、安静にしたり、
また冠攣縮性狭心症の場合、夜間や早朝など決まった時間に安静にしていても発作が生じることが一般的です。飲酒・喫煙をすると生じるという方もいます。冠攣縮性狭心症の場合にも硝酸薬は有効です。
また労作性狭心症・冠攣縮性狭心症ともに、発作が頻回になったり、発作の持続時間が長くなったりした場合には、急性冠症候群へ進行する可能性があるといわれています。
急性冠症候群の症状
不安定狭心症の場合、安静にしているときでも頻回発作が生じるようになります。短期間に進行することもあるため、発作の回数が増えてきた場合などは速やかに医療機関を受診しましょう。
また、急性心筋梗塞では狭心症よりも強い胸の痛みが20分以上続くといわれ、硝酸薬を服用しても治まらないことが一般的です。このような場合、命に関わることもあるため速やかに救急車を呼びましょう。
狭心症の検査方法
安定性狭心症の場合、血液検査やX線検査、心電図検査、心臓に負荷をかけて行う“負荷試験”、24時間心電図を測定する“ホルター心電図検査”などが行われることが一般的です。
また病状によっては、血管に“カテーテル”と呼ばれる細い管を入れて行う心臓カテーテル検査や心臓超音波(心エコー)検査などが行われることもあります。
急性冠症候群の場合、緊急性が高いことも少なくないため、血液検査や心電図検査、心エコー検査などで診断を行いながら、治療も同時に進めていくことが一般的です。
狭心症の治療方法
狭心症の治療方法は、病気の種類や進行度合いによっても異なります。主な治療の選択肢として、薬物療法、カテーテル治療、手術治療が挙げられます。
以下では、それぞれの治療方法についてご紹介します。
狭心症の薬物療法
血管の緊張を緩めたり、心臓の負荷を和らげたり、血栓の発生を防いだりするために薬物療法が検討されることがあります。主な治療薬として、硝酸薬やカルシウム拮抗薬、交感神経β遮断薬などが挙げられます。
狭心症のカテーテル治療
カテーテル治療とは、血管に“カテーテル”と呼ばれる細い管を入れて行う治療方法です。狭心症に対しては、“経皮的冠動脈形成術(PCI)”と呼ばれるカテーテル治療が検討されることがあります。
PCIでは、血管が狭くなったり、詰まってしまったりしている部分までカテーテルを進め、カテーテルの先端についたバルーンを膨らませることによって、血管を広げます。また、再発を防ぐために“ステント”と呼ばれる金属の筒を留置し、血管内の広さを保つことが一般的です。
狭心症の手術治療
薬物療法では十分な効果が得られず、カテーテル治療も難しい狭心症では、“冠動脈バイパス手術”という手術治療がされることがあります。冠動脈バイパス手術とは、狭くなったり詰まったりしてしまった冠動脈の代わりに“迂回路”となる血管をつなぐことで、心筋への血流を維持する手術方法です。主に足や胸、胃などにある血管をつかって迂回路を作ることが一般的です。
体に負担のかかりにくい手術治療
従来、冠動脈バイパス手術は胸の中央の皮膚を20〜25cmほど切開し、胸骨を切り開いて行う“胸骨正中切開”で、人工心肺装置を用いて一時的に心臓を止めて行うことが一般的でした。しかし近年はより傷が小さく、心臓を止めずに行う“左前小切開冠動脈バイパス手術(MICS-CABG)”などの低侵襲心臓手術(MICS)が登場しています。
MICS-CABGでは、片胸の皮膚を6~8cmほど切開し、
受診希望の方へ
狭心症では、病気の種類や進行度合い、患者さんの全身状態などによってさまざまな治療方法が検討されます。診断されたときは、医師とよく相談して治療方針を決定しましょう。
経皮的冠動脈形成術(PCI)などのカテーテル治療に加えて患者さんの負担を軽減したMICS-CABGを積極的に行っています。また、帝京大学医学部附属病院ではロボットを用いて内胸動脈を採取し、MICS-CABGを行っています。