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心疾患と治療

CARDIAC DISEASE AND TREATMENT

弁膜症手術 全般 

01.弁膜症とは
心臓の中は、4つの部屋に分かれています。そして、それぞれの部屋の出口に一方弁が付いています。
右心房と右心室の間に「三尖弁」、右心室の出口に「肺動脈弁」、左心房と左心室の間に「僧帽弁」、左心室の出口にある「大動脈弁」の4つです。
弁は、開放と閉鎖を繰り返すことで、血液の流れる方向を決める扉の役割を果たしています。
4つの弁のどれかに不具合を生じた状態が、『弁膜症』です。

成人では、血圧の高い左心室に付着している大動脈弁と僧帽弁に弁膜症をきたすことが多いです。
02.弁膜症の種類
弁膜症には、弁の開放不全をきたした「狭窄症」と、弁がぴったりと閉じなくなる「閉鎖不全症」とがあります。
●狭窄症
弁の開きが悪くなった状態です。
血液が心臓の中を流れていきづらくなり、溜めこまれることになります。
以前はリウマチ熱の後遺症として起こることが多かったのですが、最近の日本ではリウマチ熱の罹患率が低下しているため、リウマチ性の弁膜症を見ることも少なくなりました。
高齢化に伴って、加齢による変性が狭窄症の原因の多くを占めるようになっています。
●閉鎖不全症
弁がしっかりと閉じなくなった状態です。
閉じきらない弁から血液が逆流し、血液は心臓の中を行ったり来たりすることになります。
これも変性が原因の多くを占めています。先天性の形態異常や、感染による弁の破壊が原因となることもあります。
03.弁膜症の外科手術

①手術適応

弁膜症のせいで心臓が拡大(=心臓の内腔が大きくなること)したり、収縮する力が低下したり、さらに不整脈や失神、心不全を発症するようになると、手術治療が必要になります。
心不全の症状とは、動いたときの息切れや疲れやすさ、ひどくなると安静にしていても苦しくなってくることがあります。
※僧帽弁閉鎖不全症では、弁逆流が高度に認められれば、上記のような心臓そのものの変化や症状が出ていなくても、手術適応となる場合があります。

②弁形成術

弁の変形が少なく、しなやかさが保たれている場合に、ご自分の弁を残して弁の修復を行う方法です。
修復には、余剰組織を切除したり縫い縮めたり、ゴアテックス糸で高さを調整したり、弁の枠を補強したり(人工弁輪)、などのさまざまなテクニックを組み合わせて弁の形を整えていきます。
弁の変性や不整脈(心房細動)による僧帽弁閉鎖不全症や、僧帽弁閉鎖不全症に合併した三尖弁閉鎖不全症が、良い適応となります。大動脈弁閉鎖不全症に対しても可能であれば行います。
人工弁植えこみに関連した合併症(血栓塞栓症、抗凝固療法関連出血、人工弁感染、人工弁機能不全など)のリスクを回避できるメリットがあります。

③弁置換術

ご自分の弁の替わりに、人工弁を植え込む方法です。
弁の変性が進行してしなやかさを失い硬くなっていたり、感染により破壊が著しく進行している場合には、人工弁置換が必要になります。
人工弁も日々改良され、機能が良く、長持ちする弁が作られるようになっています。

④手術方法

弁膜症の手術は、人工心肺という機械を使って、心臓を止めた状態で行います。手術を安全に行うために、手術前には全身のスクリーニング検査(頭部MRI/MRA、胸腹部CT、冠動脈造影検査、血管エコーなど)を行います。
胸の正面にある胸骨という骨を切って手術をすることが一般的です。

当院では、心機能や動脈硬化の具合をみて、胸骨を切開しない低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery: MICS手術)を行っています。(詳細は別項に。)
胸骨正中切開
肋間小開胸
04.人工弁
人工弁には機械弁と生体弁とがあります。
●機械弁
半月型の2枚のディスク(弁葉)の両端が、リング部分の内側とヒンジを形成し、そこを支点に血流によって開閉する構造をしています。現在日本で使用できる機械弁の弁葉は、パイロライトカーボン(人工炭素)からできており、非常に丈夫です。耐久性に優れている点が、機械弁のメリットです。
その一方で、血液の塊(血栓)が付きやすく、弁葉の動きを妨げたり、血流にのって飛んでいけば脳梗塞などの合併症を起こす危険があります。そのため、機械弁を植え込んだ場合は、血栓ができないように血液をサラサラにするワルファリンという薬を一生涯飲み続ける必要があります。

※ワルファリンについて
  • 血液のサラサラになりやすさ(薬の効果)には個人差があり、服用量は患者さんによってさまざまです。
  • 定期的(1-2か月ごと)に血液検査で効き具合を確認する必要があります。
  • 食事や他の薬剤が効き具合に影響することがあります。ビタミンKの多い食品・ビタミンKを産生する食品(納豆、青汁、クロレラなど)は食べてはいけません。新しい薬を飲むときは、必ず薬剤師さんに確認しましょう。
  • 出血したときに止まりづらくなります。
●生体弁
弁葉部分が、ウシの心膜(心臓を包む膜)やブタの心臓弁といった動物の組織を加工してつくられています。3枚の弁葉でできています。
機械弁と比べて血栓ができづらく、ワルファリンを飲み続ける必要が無い点が生体弁のメリットです。
ただし生体組織から作られているので、経年変化で弁葉が変性し、硬くなって開きづらくなったり、亀裂が生じたりしてきます。弁の機能低下が進めば再手術(再弁置換術)が必要になります。10年から15年程度経つと再手術が必要になることが増えてきます。とくに若い人と透析中の患者さんは、生体弁が傷むのが早いと言われています。
人工弁置換術を受けるときに機械弁にするか生体弁にするかは、それぞれのメリットとデメリットをじゅうぶんに理解したうえで、患者さんご自身で選択していただけます。
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